ーーー現在向き合っている研究テーマについて教えてください。
私が専門としているのは、社会保障や社会福祉といった国の制度や政策の歴史に関する分野です。単に「何年にどのような制度ができたか」という年表上の出来ごとを追うだけではなく、その制度・政策の実施状況から制度・政策の意義を考えることを重視しています。
これまで、年金や医療、社会福祉など日本の社会保障の歴史について研究してきました。その中で、社会福祉のようなサービスを中心とする給付については、「そのサービスができて、どのくらい生活が良くなったのか」ということをどうやって捉えたらいいのかを意識してきました。その関連で、サービスを受ける当事者や提供者はその制度や政策をどのように受け止めているのか、地域の現場や施設での実践についても関心を持っています。
地域の現場や施設での実践との関連では、国の制度・政策という枠組みだけでは捉えきれない、「助け合い」や「支え合い」、「工夫」の存在にも注目しています。実際に地域や現場へ行くと、自発的な支援活動や温かい繋がりが、地域の方々の生活を助けたり、快適にしたりしている場面があることを実感します。
こうした活動については、私自身が「自分も現場に出て支援活動そのものを行う」というより、「地域や現場で支援している人たちを応援したい」という想いがあります。現場でがんばっている支援者や学生たちを支えたり繋いだりする仕組みを作り、地域社会の助け合いが持続的に広がっていくための基盤づくりを目指した研究も行っています。
ーーーなぜ、現在の研究テーマに向き合おうと思ったのですか?
私のキャリアを振り返ると、人の役に立つことをしたい、という漠然とした思いはあったものの、一貫した緻密な計画を立てていたわけではありませんでした。最初のきっかけは、大学でゼミを選択する際に、北欧の社会保障を専門とする先生のゼミが新しく開講されたことでした。ゼミでは北欧を中心に社会保障について学び、ゼミ生と一緒に北欧を旅行したりもしました。日本の社会保障の現場にも関わりたくなってボランティアへの関心も持つようになったのですが、どこに行けば参加できるのかという具体的な仕組みや入口が分からずにいました。
大学院への進学も転機でした。日本の社会保障の歴史を専門とする指導教員のもとで、制度・政策の歴史を研究することの意義や、実施過程を含めてその制度・政策について検証するという学問的姿勢を叩き込まれたように思います。実施過程を調べるようになって、年金などの金銭給付であれば、給付額や所得代替率といったデータで給付の効果を把握しやすい面がある一方で、社会福祉のようなサービスを中心とする給付では、受給者数や施設数などの数字は把握できても「そのサービスができて、どのくらい生活が良くなったのか」というところまでは測りきれないように感じていました。そうした中で、当事者やサービス提供者はその制度や政策をどのように受け止めているのだろう、と、地域の現場や施設での実践についても関心を持つようになりました。
さらに、大学で教鞭を執るようになって、政策デザイン学科の前身である共生社会経済学科の立ち上げに携わった際に「フィールドワーク」という授業を開講することになりました。ボランティアに興味があってもきっかけがない、という学生たちがボランティアに踏み出せるよう、病院や特別養護老人ホーム、児童館などでボランティアや職場体験をできるようにしました。その打ち合わせや見学などで、私自身も地域の現場へ足を運ぶ機会が増えていきました。
施設職員やボランティア、利用者など地域の現場で出会った方々は、学生たちを温かく受け入れてくれました。学生たちは、日々の業務や課題、そして課題にどう対応しているか、など、現場の実情を学ばせてもらいながら、生き生きと活動する姿を見せてくれました。授業が終わった後もボランティアを続ける学生もいました。こうした地域の方々との触れ合いを通じて、現場で支援をする方々を繋いだりサポートしたりすることの意義を感じるようになりました。
ーーー研究シーズの社会実装に向けた想いについてお聞かせください。
社会実装については、地域での助け合いや支援活動が「一回限りの善意」で終わるのではなく、経済的・組織的に持続可能になるようにしたいという想いがあります。
地域活動や社会課題解決に取り組む方々は、「地域に貢献したい」「誰かを助けたい」という強い志を持っていていても、活動を継続するための資金繰りや協力者を集めることに苦戦するケースが少なくないように思います。善意やボランティア精神だけに頼るのではなく、ビジネスや経済の視点を取り入れることで持続可能性を高めていけると考えています。
具体的な社会実装のケースとして、地域内での助け合いと電子ポイント(地域通貨)を組み合わせた仕組みの構築に取り組んでいます。これは、キャッシュレス決済サービスを通して、地域内での助け合いを活性化させようというものです。例えば、「高齢者の買い物を代わりに引き受ける」「冬場に雪かきを手伝う」「地域のお祭りを盛り上げる」といった助け合いが求められる場面についての情報を提供して助けてほしい人・助けられる人を繋ぎ、助け合いの行動に対してポイントを付与し、そのポイントを地元の商店街などで地域通貨として利用できる、という仕組みです。
さらにこの取り組みでは、キャッシュレス決済サービスを導入した地域に、決済時の手数料の一部を還元・分配する特許技術を組み込んでいます。これにより、導入した店舗側にとっても、手数料が単なるコストとならず、地域内でお金と助け合いが循環する財源モデルが成り立ちます。
こうしたポイントを使ったシステムによって、地域での助け合いが活性化され、持続可能になっていくと考えています。この仕組みをきっかけとして、「地域に目を向け、互いに助け合うマインド」が醸成され、地域の方々が安心と幸せを感じられる地域社会が作られていくことを期待しています。
ーーー最後に、未来の挑戦者である若者たちに向けたメッセージをお願いします。
これから社会に羽ばたく学生の皆さんには、「学生である今だからこそ、起業や新しい挑戦に踏み出してほしい」と伝えたいです。
社会に出てから大人が事業を興そうとすると、生活の糧を得られるのかというリスクや資金面など、責任と負担が重くのしかかります。しかし、学生の立場であれば、そうした責任や負担を重く感じずに挑戦できるのではないでしょうか。例えば、学生時代の挑戦において、もし失敗したとしても、決してマイナスにはならないと思います。たとえ思い通りに行かなかったとしても、生活がおびやかされるようなリスクはなく、その体験が次のステップへ進むための貴重な学びや「ネタ」になります。
そして今は、学生の皆さんの起業やチャレンジを支援する教育や制度が非常に充実していて、挑戦するのに恵まれた環境にあります。「自分にはまだ大層なことはできない」と自分の可能性を過小評価してしまっている方が多いかもしれませんが、皆さんが思っている以上に、若い力や視点は地域や社会から求められています。そして、世の中の多くの方々は、情熱を持って挑戦しようとする若者を「手助けしたい」「応援したい」と思っているのではないでしょうか。
アントレプレナーシップ(起業家精神)とは、単に会社を作ることだけを指すのではなく、「何かに向かって一歩踏み出してみる気持ち」そのものです。失敗を恐れず、自分の関心や身近な課題に向けて、挑戦の第一歩を踏み出してください。
