ーーー現在向き合っている研究テーマについて教えてください。
私が主に専門としているのは、メディア文化におけるクリエイター(創作者)を対象とした調査研究です。中でも、コンピューターゲームを開発している作り手たちの集団や個人に着目し、社会学の視点からアプローチを続けています。
もともと15年ほど前からは、個人や小集団、あるいはアマチュアとして趣味でゲームを自主制作している人々(いわゆる同人ゲームやフリーゲーム、最近でいうインディーゲームの制作者たち)の調査を行ってきました。彼らがどのような動機で創作活動に打ち込んでいるのか、どのように仲間と繋がり人間関係を築いているのか、そして彼らの活動がより大きなゲーム産業全体とどのような関係にあるのかを明らかにするのが、私の出発点でした。
最近は、こうした「集団」の調査に加え、「特定の個人」のライフヒストリーに焦点を当てた研究を進めています。あるクリエイターが、いかにして独自の独創性やスタイルを身につけ、独創的な作品を生み出すに至ったのか。その背後にある家族環境、地域社会、学校教育、さらにはその人物が子どもの頃に体験した漫画や映画、テレビ番組といったメディア作品が、人格形成や作品作りにどのような影響を与え、投影されていったのかを深く探求しています。
こうした「ゲーム研究(ゲームスタディーズ)」は、この20年ほどで世界的に大きな盛り上がりを見せています。ゲームの市場規模が20年前の約2兆円から現在は約30兆円へと急拡大し、ゲームではAI技術やリアルタイム3Dグラフィックスといった最先端技術の牽引役にもなっています。さらに、ゲームが教育や高齢者の生きがい創出、コミュニティ形成に活用されるなど、その社会的価値が認識されるようになりました。それに伴い、かつては「未開のフロンティア」だったゲーム研究に国内外の多くの研究者が参入し、今や日本でも名だたる大学でゲーム研究を専門とする教員が誕生するほどの盛り上がりを迎えています。私はこうした学問的気運の中で、学生向けの教科書『デジタルゲーム研究入門』の執筆や海外の入門書の翻訳を手がけ、この分野の学術的な基盤づくりに努めています。
ーーーなぜ、現在の研究テーマに向き合おうと思ったのですか?
私自身、もともとは研究者ではなく「作家(創作者)」になりたいという夢を抱いて文学部へ進学しました。しかし、大学で学ぶ中で「自分にはそこまでの創造性や才能はないのではないか」と自問自答し、結果として作り手への道は断念することになりました。
ただ、その挫折がきっかけとなり、「では、実際に優れた作品を生み出している創作者(クリエイター)たちは、自分と一体何が違ったのだろう。どうやってその独創的な能力や考え方を獲得したのだろうか」という強い関心へとシフトしていったのです。
特に、私にとって憧れの存在であり、国民的ロールプレイングゲーム『ドラゴンクエスト』の生みの親である堀井雄二さんが、たまたま同じ大学・学部の先輩であることを知った時の衝撃は今でも覚えています。「同じような環境にいながら、なぜこれほど偉大な創造性の差が生まれるのか」という個人的な問いが、研究の大きな原動力となりました。
さらに視野を広げると、日本の優れたゲームクリエイターに対する本格的な作家研究が、国内ではほとんど行われておらず、むしろ海外の研究者たちによって先行して本が出版されているという現状に気がつきました。「日本人である我々が、自国の素晴らしいクリエイターの価値を研究し、発信していかなくてどうするのか」という、ある種の使命感も芽生えたのです。
もう一つのきっかけは、働きながら趣味でゲームを作り続けるアマチュアの創作者たちのコミュニティに出会ったことでした。プロとして生計を立てるだけでなく、「趣味として創作し続ける生き方」の多様さに強く惹かれ、彼らの生活実態や創作の動機に迫りたいと思いました。自分が専攻していた「社会学」という人間や社会の繋がりを読み解く学問を用いて、彼らの情熱や生態系を明らかにしたい。その一心で、この未開の研究テーマに身を投じることを決めました。
ーーー研究シーズの社会実装に向けた想いについてお聞かせください。
私の研究における「社会実装」は、新しい製品やサービスを開発して市場に提供するという、いわゆる典型的なビジネスの形だけを指すものではありません。私にとっての社会実装とは、これまで「天才」という一言で片付けられ、ブラックボックス化されていたクリエイターの「独創性」や「創造性」の形成プロセスを学術的に解明し、それを通じてこれからの未来を担う人々に「夢や希望、そして具体的な成長へのステップ」を提示することにあります。
将来クリエイターを目指す子どもたちや学生の多くは、「自分には特別な才能がないから無理だ」と早々に諦めてしまいがちです。しかし、数々の優れたゲームデザイナーやクリエイターの背景を研究していくと、そこには必ずしも生まれ持った天才性だけではなく、日々の努力や人との付き合い、そして何よりも「好きなことをひたすら続けてきた蓄積」があることが分かってきました。
例えば、ある人は歴史小説が大好きで歴史の知識をひたすら蓄えていた、またある人は地理が大好きで地図を眺め続けていた、あるいは生物の飼育に夢中になっていたーー。一見、将来の仕事やお金儲けには全く無駄に見えるようなことでも、本人が純粋な好奇心から熱中して蓄積したものが、のちにゲームデザインなどのクリエイティブな仕事において、他者には真似できない唯一無二の「強力な武器(独創性)」として花開いているのです。
私は、こうした「独創性が生み出されるメカニズム」を社会学や心理学の知見を交えて体系化し、論文や著書を通じて世の中に公開していきたいと考えています。それにより、クリエイターを目指す人が「自分も好きなことを徹底的に掘り下げれば、独創的な表現に近づけるかもしれない」という指針を得ることができます。
この想いは、本学での教育実践とも深く繋がっています。私の授業やゼミでは、学生に対して教員から特定のテーマを押し付けることはしません。学生自身が「心から好きだと思えるテーマ」を自ら選び、主体的に調査して卒業論文にまとめるように指導しています。この「自分の好奇心に基づいて行動し、探求し続ける」というプロセスそのものが、アントレプレナーシップ(挑戦精神)の育成そのものであり、社会へ送り出すための重要な教育的実装であると確信しています。
ーーー最後に、未来の挑戦者である若者たちに向けたメッセージをお願いします。
若い皆さんに何よりも伝えたいのは、「失敗を恐れず、自分が好きなこと、関心を持ったことをとにかく諦めずにやり続けてほしい」ということです。
現代は、何かに一生懸命取り組むことに対して、「そんなことをやっても無駄だ」と冷笑したり、斜に構えてニヒリズムに陥ったりする風潮が一部にあります。しかし、今やっていることが本当に「無駄」かどうかは、ずっと後になって人生を振り返ってみなければ誰にも分かりません。無駄に見えることの中にこそ、将来のあなたを救い、輝かせる唯一無二の個性が眠っているのです。
また、大学での学びを「実社会では役に立たない」と軽視する声もありますが、それは大きな誤解です。大学が提供する正規の授業やカリキュラムは、社会に出てから間違いなく皆さんの土台となり、強力な武器になります。大学という場所は、入学がゴールではありません。在学中にどれだけ多くの未知の知識に触れ、多様な能力を高め、知的刺激を受けられるかという「プロセス」こそが最も価値あるものです。大学にいる限られた時間だからこそ挑戦できる学業に、ぜひ真剣に向き合ってほしいと思います。
もし、何かに挑戦して失敗したとしても、それは決して無駄にはならず、後になって素晴らしい人生の「ネタ」や成長の糧になります。反発心でも何でもいい、心の中に何らかのモチベーションの火を灯し、悪いことではない何かに向かって、情熱を持って走り抜けてください。
皆さんの周りには、一生懸命挑戦しようとする人を応援し、手助けしたいと願っている大人がたくさんいます。大学という贅沢な環境を存分に活かし、自分だけの好きなことを徹底的に掘り下げ、社会へと羽ばたいていく挑戦を心から応援しています。
