ーーー現在向き合っている研究テーマについて教えてください。
私が現在主に向き合っている研究テーマは、大きく分けて2つあります。
1つ目は、被災地や公共空間における「空間利用の実態調査と利活用」に関する研究です。東北の被災地をはじめ、身近にある公共空間が現在どのように使われており、今後どう活用できるのかに関心を持っています。例えば昨年は、岩手県陸前高田市の河川敷にある公園を対象に調査を行いました。その公園は立派な施設でありながら、東日本大震災後の高台移転などの影響もあり、街の中心部から少し離れていて日常的な利用が減っているという課題がありました。そこで、こうした公園という空間を、イベントや環境教育、地域のお祭り、さらには防災教育の場としてどのように再活用できるか分析し、論文としてまとめました。
2つ目は、「風評被害や情報が人々の行動に与える影響」に関する研究です。これも東日本大震災などの災害と強く関係しています。優れた価値を持つ商品や地域であっても、ひとたびネガティブな情報が流れると購買や訪問が控えられてしまう現象が起きます。ニュース等で報じられる被害が、本当に長期的に深刻な影響を及ぼしているのか、それとも需要が一時的に下がったタイミングが強調されているだけなのか、あるいは報道以上に長期化しているのか。アンケート調査などを通じて、情報の影響度や実態を客観的に解明する研究に取り組んでいます。
一見異なる2つのテーマですが、どちらも「地域の現場で起きている課題に対し、目に見えにくい影響や価値を捉え直す」という点で共通しています。
ーーーなぜ、現在の研究テーマに向き合おうと思ったのですか?
私の研究のベースにあるのは「環境評価」という分野です。世間では「環境は大切だ」と言われながらも、かつては開発が優先され、現在も人口減少に伴い放置される形で環境変化が進んでいる現状があります。なぜ環境が軽視されがちなのかと考えた時、環境がもたらす恩恵や価値(経済的効果)が目に見えにくいからだと気づきました。その「見えない価値」を分かりやすい指標として数値化し、可視化するのが環境評価という学問です。
私が大学時代を過ごした1990年代は、地球温暖化や環境政策への関心が世界的に高まり始めた時期でした。仙台で育ち東北大学に進学した当時、公共事業評価や環境経済学を専門とする先生との出会いがありました。
大きなきっかけとなったのが「青葉城(仙台城)」の再建をめぐる議論です。観光客誘致によるわかりやすい「経済効果」を狙った再建案に対し、歴史的な正確さを再現することの価値をどう証明するかという課題がありました。従来の経済計算だけでは測れない「歴史や環境の価値」を、環境評価の手法を使えば定量的に示せるということに新鮮な衝撃を受けたのです。
周りの学生が金融や貿易といった華やかな分野に進む中、「環境の分野は絶対に将来社会的に必要とされ、伸びる」と確信し、この道へ進みました。「目に見えないものを数値化して評価する」という研究の魅力に引き込まれ、今日まで研究を続けています。
ーーー研究シーズの社会実装に向けた想いについてお聞かせください。
何もないように見える空間や使われていない土地をどのように活かすかという「空間利用の評価」は、どこでも直面する汎用性の高い課題であり、極めて社会実装しやすい分野だと考えています。
具現化に向けた第一歩として、まずは地元の仙台市内などで使われていない公共空間や未利用地を学生たちと一緒に探し出し、「ここでどのようなイベントや取り組みができるか」を具体的に企画して地域の方々に提案していく活動を継続していきます。
さらに将来的な見通しとして、「環境リスクに備える遠隔地連携モデル」の構築を目指しています。災害等で特定の地域の土地や農地が使用不能になった際、別の遠隔地に「代替地」をあらかじめ確保しておき、相互にカバーし合ったり生産物を融通したりするような、リスク補償制度の提案です。また、空き家や企業の未利用施設を被災時の代替拠点として一時的に活用できるルールづくりなど、自治体や公共事業へ向けたコンサルティングや制度設計として社会提案を行っていきたいと考えています。
ただし、社会実装において「数値化」は万能ではありません。数字だけが一人歩きしてしまう危険性や調査の限界も常に存在します。だからこそ、評価のタイミングや地域への貢献度を慎重に見極める姿勢が不可欠です。授業や研究活動を通じて、学生たちにも「既存の空間やモノを別の視点から捉え直し、社会でどう活用できるか」という応用力と実践的な思考を育んでほしいと願っています。
ーーー最後に、未来の挑戦者である若者たちに向けたメッセージをお願いします。
これから社会へ出ていく学生の皆さんや若き挑戦者に伝えたいのは、「専門知識を深めると同時に、多角的な『ものの見方・考え方』を身につけてほしい」ということです。
ある一つの角度から見れば「使い道がない」「価値がない」と思われるような空間やモノであっても、視点を変えることで全く新しい価値や活用方法が見えてくることがあります。これは研究やビジネスに限らず、皆さんの人生やキャリアにおいても全く同じことが言えます。
今後、困難なことや壁にぶつかる場面もあるでしょう。しかしそこで立ち止まるのではなく、「この状況は、自分をさらに伸ばすための絶好の機会なのではないか?」と別の視点から捉え直してみるのです。そうした思考の切り替えや柔軟な視点を持つことが、直面する課題を乗り越える大きな力となります。
教科書通りの知識を得るだけでなく、身の回りにある様々な課題に対して「別の見方はないか」「もっと違う使い方ができないか」というアンテナを張り巡らせてください。柔軟で豊かな視点を武器に、未来の社会で力強く活躍していくことを期待しています。
