ーーー 現在、大学ではどのような研究をされていますか?
現在、私が主として向き合っている研究テーマは、グローバル金融危機、とりわけリーマンショック後のアメリカの証券市場に関するものです。
グローバル金融危機とは、2007年から2009年にかけて世界中を巻き込んだ大規模な経済危機で、特にアメリカのサブプライムローン問題を発端として金融システム全体が深刻な混乱に陥りました。私は特に、リーマンショック後の米国証券市場における変化と動向を深く掘り下げています。
お金は本来、何かを実現するための手段であり、仕組みを工夫すれば従来できなかったことも可能になります。現在は、市場の具体的な動きや仕組みを通じて、金融が社会や経済活動をいかに「サポート」し、価値を創出するかについて探求しています。
ーーー これまでの歩みを教えてください。
世の中の動きを理解できるということが面白く、高校生の頃に経済に興味を持つようになりました。大学では経済学部に在籍し、当初は経済思想や経済学説史に興味を持っていて大学院に進学しました。就職活動も経験しましたが、気がつけば研究の道に進み、30歳近くまで大学で学びを深めていました。
博士課程から現在のテーマであるアメリカの金融市場のシステムについて研究を始めるようになったのですが、大きな転機となったのは、2008年のリーマンショックです。当時、背景にあるアメリカの金融システムがどのように機能し、なぜそれが破綻に繋がったのかというメカニズムに強い関心を抱き、深く掘り下げたいと考えるようになりました。この危機を目の当たりにし、金融が単なるお金の動きだけでなく、社会や経済に甚大な影響を及ぼす実態を痛感しました。
ーーー 社会との接点となる取り組みにはどのようなものがありますか?
これまで私は、グローバル金融危機後のアメリカの証券市場、特に社債市場や株式市場を中心に研究を進めてきました。そのなかで特に注目したのが「シャドーバンキング」です。
シャドーバンキングとは「影の銀行」とも呼ばれ、銀行ではなく証券会社やファンドといった主体が行う金融仲介業務を指します。銀行のように預金を受け入れるわけではありませんが、投資信託などのファンドが広く資金を集めて投資や運用を行う点で、銀行と似た役割を果たします。銀行と比べて規制が緩く、金融システムにいつの間にかリスクが蓄積し、社会や経済全体に大きな影響を及ぼすことが懸念されます。アメリカで起きたサブプライムローン問題からリーマンショックの流れは、まさにその一例といえます。リーマンショック後はビットコインなど暗号資産(仮想通貨)の分野で新たなイノベーションが登場しています。そうした動きも研究対象に加え、金融システムへの影響を多角的に分析しています。
一方で、金融の視点を通じて日本が抱える社会問題にも向き合っています。人口減少が進む日本では、国内の経済成長は難しい局面にあります。そのため、輸出主導型の経済から投資収益に依存する構造へと変化してきましたが、これも海外頼みの側面が強いのが現状です。こうした状況を踏まえ、金融の仕組みをいかに社会貢献につなげられるかを模索しています。
ーーー 今後、どのようなビジョンを描いていますか?
私の研究の根底には、金融を単なるお金の流れとしてではなく、人や社会が何かを成し遂げるための「支え」と捉え、その仕組みをいかに構築すれば社会に貢献できるのかを探る、という想いがあります。
そのため、金融の仕組みを研究することで、本来できなかったことができるようになると信じています。 今後も、金融を単なるお金の循環と捉えるのではなく、社会の挑戦を支えるインフラとして再設計していく研究を重ねていきたいと考えています。
ーーー最後に、未来の挑戦者である若者たちに向けたメッセージをお願いします
ぜひ自身の人生設計やキャリアプランを真剣に考える時間を設けてほしいと思います。現代は、これまでのルールが変わって、色々な選択ができるようになりました。「やってみたい」と思ったことができる可能性が増え、転職や起業をサポートする体制も増えてきています。その中で自分がどう生きていきたいか、どう働いていきたいかをしっかり考える機会が必要だと思っています。
研究であれ、事業であれ、何かに挑戦し、困難に直面し、それを仲間と共に乗り越えていく経験は、かけがえのない思い出となり、自身の大きな成長に繋がります 。漫然と時間を過ごすのではなく、自分の興味や情熱を追求し、自ら機会を掴み、能動的に行動することを大切にしてほしいです。
また、大学4年間の中でやりたいことが見つからなくても、就職して経験を重ねる中でやりたいことが見えてくることもあります。就職してから見えてきた問題意識に向き合っていくのもいいと思いますので、個人の満足度を追求する姿勢を大切にしながら、どう生きていくかを考えてみてください。
