ーーー現在向き合っている研究テーマについて教えてください。
新たなエネルギー供給モデルである「マイクログリッド」技術や、再生可能エネルギー発電・EV充放電設備等が大量に導入された配電系統における電力品質悪化対策および安定化制御、洋上風力システムの構築などに関する研究を進めています。
その中の「マイクログリッドシステム」について説明します。マイクログリッドとは、小規模な電力網を指し、一定の地域内で独立してエネルギーの供給と消費を行うシステムです。このシステムでは、太陽光や風力、小型水力といった再生可能エネルギーを活用することで、地元の電力需要を満たす「地産地消」の仕組みとなっています。
この研究が注目される背景には、災害時における電力供給の脆弱性があります。日本においては、2011年の東日本大震災の影響で広範囲が停電した際に、東北福祉大学がマイクログリッドシステム(通称:仙台マイクログリッド)により電力を維持できたことがその成功例です。このような実績が、国内外でのマイクログリッドの有用性を裏付けています。
また、「マイクログリッド」の概念を初めて提案したアメリカでは古い電力インフラが課題となっており、特に電力ネットワークが脆弱な地域で太陽光および風力発電の大量導入に伴って実用化が進められています。これらの地域では、マイクログリッドが停電リスクの軽減策として期待されています。
現在は、研究成果と社会実装を結びつけることで、持続可能でレジリエントなエネルギー供給モデルの実現を模索しています。マイクログリッドの導入により、エネルギーの「地産地消」が実現するとともに、地域のレジリエンスが強化され、持続可能な社会づくりにつながる。そんな意義があるわけです。
ーーーなぜ、現在の研究テーマに向き合おうと思ったのですか?

前職の東北大学での再生可能エネルギーに係る研究がその始まりでした。そこで得られた技術的知見を活かし、高度なエネルギー管理を実現するマイクログリッドへの関心が高まったのです。
そのきっかけは、日本初のマイクログリッド国家プロジェクトを推進した人物である豊田先生との会話でした。「マイクログリッドは、ホット・トピックだよ。」という一言が、この新たなテーマへの扉を開きました。私がマイクログリッド技術の研究開発に取り組むことには、豊田先生のこの一言の影響は大きいものでした。
元々研究を進めていた再生可能エネルギー分野への興味の源泉は、「人間の活動は、自然環境への影響をできるだけ最小に抑えるべきだ」という持続可能な環境への想いから来ています。環境問題に対する解決のためのアプローチとして再生可能エネルギーが注目されてきたわけですが、これらのエネルギー源である太陽光や風力は変動的なため電力網に負担をかけるという課題もありました。その課題を解決するためには、電力エネルギーの制御および管理機能を備えたマイクログリッドのような新たな供給システムが求められている。この技術は、電力貯蔵装置や安定化装置を用いて内部でエネルギーをマネジメントすることで、電力網にかかる負荷を軽減することができるという強みがあるのです。
マイクログリッドが、電力エネルギー利用において地球環境を守っていくための道筋を示し、環境に優しい地域・社会の未来の構築に貢献できると信じています。
ーーー研究シーズの社会実装に向けた想いについてお聞かせください。
利益を追求するためではなく、本当に世の中の役に立つものを作りたいという思いがありました。
マイクログリッドは、小規模なエネルギー供給システムで、ユーザー主導で導入されることが多いです。これが社会にどれだけ貢献できるかを考えると、ワクワクします。
事業化に取り組むうえで、もちろん経済性は必要です。ただ、それだけが目的になってしまうと、いずれ挫折することは目に見えています。だからこそ、私は「このシステムの存在は、社会や環境にとってプラスになる。」と確信しながら日々研究を進めています。現代社会で本当に必要なもの、役に立つものを残すことが目標です。
実際の事業化に向けては、多くの関係者との協力も必要ですが、今後、試行錯誤しながらも、地域の皆さんの生活をより良くする手段として、このプロジェクトを育てていきたいと心に決めています。
こうした考えの背景には、宗教的な学びも影響しています。キリスト教はもちろん、仏教や道教の思想などを学びながら、人間と環境の調和を追求してきました。これが私のモチベーションとなり、研究と事業化への情熱を支えています。
ーーー最後に、未来の挑戦者である若者たちに向けたメッセージをお願いします。
これから起業や新たな挑戦を考えている学生の皆さんに伝えたいことがあります。それは、自分のためだけではなく、他の人のために何かをするという信念を持つことの重要性です。自分のためだけに行動していると、困難に直面し本気で努力して乗り越えなければならない場面では諦めてしまうことが多くなりますが、他者のために何かをすることで、どんな壁にぶつかっても乗り越えられる力が生まれるのです。
そして、志を持つことは大切ですが、それだけでは足りません。知識や技術を身につける努力が不可欠です。専門的なスキルはもちろん、アイデアや企業管理技術など、自分の将来のスタートアップを支える要素をしっかりと磨いてください。
さらに、挑戦には失敗がつきものです。10回試みたうち9回が失敗でも、最後の1回が成功すればそれでいいのです。だからこそ、失敗を恐れず、希望を捨てずに続けることが大切です。プロセスそのものが学びであり、それ自体が成功だと受け止めることができれば、どんな困難も乗り越えられるはずです。
皆さんの挑戦を応援しています。
