ーーー現在、大学ではどのような研究をされていますか?
現在、私は地方工業集積とネットワークの役割について関心をもっています。簡単にいうと、地域全体の発展を図るために、中小企業、大企業、行政機関、研究教育機関がどのような連携関係を築くべきか」について調べています。最近は、自動車や半導体産業で期待を集めている岩手県北上市を中心にフィールドワークを行っています。その調査はただの学術研究にとどまらず、地域の中小企業、大企業、行政、研究教育機関を巻き込んだ課題解決型のコミュニティを生み出すことを目指しています。
ーーーこれまでの歩みを教えてください。
父親が公立高校で国語の教師を務めていたこともあり、経済学や経営学などとは馴染みの薄い家庭環境で育ちました。その「知らない」ことが逆に強い動機となって、大学は経営学部に進学しました。ただ、入学当初から明確な将来像はもっていなかったこともあって、授業、アルバイト、趣味などの目の前のことにとにかく熱くなろうとしていました。現在の研究テーマも卒業論文を作成するために、地元の中小企業を夢中になって色々と調べていく中で興味を深めていった背景があります。
特に興味をもったのは、中小企業がサプライチェーンに加わることによって、どのように成長するのかという点です。サプライチェーンとは、製品が消費者の手元に届くまでの原材料調達、部品製作、製品組立、販売に至るまでの企業間の垂直的な役割分担のネットワークを指します。たとえば、自動車産業に関わる国内企業は約7万社も存在しますが、原材料メーカー、部品製作メーカー、組立メーカーの各社が目先の利益のみを追求した場合は、私たち消費者は不良品を買わされるリスクが高まるでしょう。一方、利益を生み出さないと企業はおろかサプライチェーンも存続できない。その意味で、サプライチェーンは長期的な存続を実現するための、企業間の利益分配機能を備わっているのです。もっとも、人材や資金などの経営資源が限られている中小企業がサプライチェーンに加わって、発注側である大企業のニーズに応えて大きな利益を生み出すことは並大抵のことではありません。しかし、技術力や管理能力の向上を図る機会にしている中小企業も多数存在し、サプライチェーンと中小企業の関係について興味を深めていきました。
大学院は、地域経済や中小企業の研究が活発だった大阪市立大学(現大阪公立大学)に進学しました。進学後は、当時注目されていた航空機産業のサプライチェーンを研究するようになりました。とくに、自動車産業への参入が難しい中、高い技術力を持つ中小企業にとって航空機部品産業が新たな挑戦の場となっている点に興味をもちました。その興味をさらに深める機会となったのが、大手信用調査会社で航空機産業振興に関わった経験です。そもそも、その会社で働くことになったのは、修士2年目の時に予想外の出来事によって、学費を自力で工面せざるを得なくなったからですが、そこでの経験は研究と現場を結びつける視点を培う絶好の機会となりました。
そのほか、大学院時代における貴重な経験として挙げられるのは、課題解決型ワークショップに参加できたことです。そのワークショップでは地域課題について研究者、大学院生、ビジネスパーソン、行政マンがフラットに議論していました。振り返ってみると、この時の経験がいまのスタンスの原型になったと思います。そして、大阪を離れてから、こういう場が自然に生まれる地域づくりに自ら関わりたいと思うようになりました。
ーーー社会との接点となる取り組みにはどのようなものがありますか?
私個人としては、地域の産業基盤の底上げに少しでも力になりたいと考えています。その一環として、岩手県北上市をはじめとする工業都市での中小企業、大企業、行政、研究教育機関が参加するワークショップを検討しています。近年は地方工業都市でも外国人雇用は大変関心の高いテーマです。しかし、立場によっては外国人雇用に対する見方が異なってくるでしょう。こうした点について、単なる講義形式ではなく、参加者全員が当事者として課題解決に取り組む場を作りたいと考えている所です。
現在は、学生とともに取り組んでいることとして、産学官連携コミュニティ「ifLinkオープンコミュニティ」の活動に参加しています。これは、大企業、中小企業、公的機関、大学関係者から構成される全国的なコミュニティで、岩手県立大学総合政策学部近藤信一先生のお誘いを受けて入会しました。そのコミュニティの東北部会では、地域課題に解決につながる製品やサービスの創出を目指し、企業のメンターと学生がワークショップを定期的に行っていました。
ほかには、本学卒業生から構成される「TG会」に加盟している現役社会人の方と学生との意見交換・親睦を図る「卒業生めぐり」を行っていました。「卒業生めぐり」では、卒業生の方に学生時代を振り返ってもらって、学生時代に何をすべきか?などのアドバイスをいただくと同時に、今の学生が何を求めているのか?を卒業生の方に知ってもらう機会にしていました。
今後は、東北地域内の横の連携を拡大させ、互いの知見や取り組みを循環させるような仕組みを作れたら、より大きなスケールでの課題解決にも貢献できるのではないかと感じています。
ーーー今後、どのようなビジョンを描いていますか?
これまでの研究では、大阪を拠点とした都市型の産業集積における企業ネットワークを主な対象としてきましたが、今は「地方だからこそできる」連携の形を模索しています。単独ではリソースが限られる中小企業同士が、いかに協働できるか。そして、それをどう地域の発展につなげていくか。そうした視点で研究と実践の両面に取り組んでいます。
今後の展望としては、地方都市だからこそ機能する企業、支援機関、研究・教育機関のネットワークモデルを示していきたいです。その第一歩として、企業や行政、大学など立場の異なる人たちが定期的に集まるワークショップを開くことを構想しています。こうしたワークショップを通じて、地域経済を支える企業の輩出と発展に寄与し、そこで得られた知見を研究や教育に結びつける仕組みを作りたいと考えています。最終的には、さまざまな事例と比較しながら、あらゆる地方都市に応用できる産学官連携ネットワークのモデルを提示したいです。
同時に、学生たちが地域と関わる入口を増やすことも重要です。地域の実際の課題に向き合うことで、学生の関心やモチベーションは一段と深まりますし、大学はその「接点」を設計する場であるべきだと考えています。今後も、地域に根差した活動の中で、単なる研究成果の発表にとどまらず、社会に還元する教育にも力を入れていこうと思います。
ーーー最後に、未来の挑戦者である若者たちに向けたメッセージをお願いします。
「人の失敗を絶対に笑わないようにすること」を伝えたいです。失敗というのは、勇気を持って一歩踏み出した人だけが得られる特権だと私は思っています。失敗の積み重ねによって自分のやりたいことが成就します。成長を実感するのは、失敗を恐れずに、諦めずにやり抜いた時だと思います。だからこそ、人の失敗を笑っている時間があるなら、自らの挑戦のために時間を費やして欲しいです。
また、もし「こんな仕組みがあればいいのに」と思う場面に出会ったら、ぜひ「自分で作ってしまおう」という気持ちを持ってほしいです。既存の枠組みにとらわれず、自ら動くことでしか見えてこない世界があります。実際、私も東北という土地に来て、たくさんの気づきと学びを得ました。その中で実感しているのは、一人ひとりの好奇心や行動力こそが、社会を動かす最も大きな原動力だということです。異なる環境に身を置き、地域の人々の声に耳を傾ける中で、新たな課題やニーズが見えてくることもあります、ぜひ、自分の「なぜ?」を大事にしながら、一歩ずつ前に進んでいってください。
*撮影協力:大関竜太氏、菅野颯介氏(本学経済学部2年生)。