ーーー 現在、大学ではどのような研究をされていますか?
現在私が向き合っている研究テーマは、主に水中での超音波利用と、それを用いた社会課題の解決です。具体的には、超音波を活用した魚群探知機である「イルカ型魚群探知機」の研究を進めています。簡単に言うと、音波が魚や海底にぶつかって跳ね返ってくる時間や強さを分析することで、水深や魚の群れの位置を把握する仕組みです。
超音波を使った研究を多方面で行っており、例えば防虫のための超音波利用では、農学部の先生方と果物等の害虫である蛾の被害を減らすための防虫に関する研究を行っています。蛾の一部はコウモリが出す超音波に忌避反応を示すことがわかっており、この特性を活かした防虫方法となります。防虫に最適な超音波スピーカそして忌避効果が高い超音波を明らかにしています。
また超音波利用のほかにも、超音絶滅危惧種であるイシガキニイニゼミとヤエヤマニイニゼミの識別に関する研究を行っています。この二種のセミは、羽の中を開かなければ識別ができないほど外見が酷似しており、遠隔での判別は困難でした。しかし、発する音には明確な違いがあることに着目し、その音の違いを利用して遠隔で種を識別する取り組みを進めています。これにより、外見では判別が難しいセミの生態調査や保護活動に貢献することを目指しています。
生物の音だけでなく、音声の解析、音声の圧縮、音声認識といった分野の研究も行っています。特に音声認識においては、AIを通したアプローチに加え、心理学的な側面からの研究をしています。例えば、九州大学の心理学の先生と共同で「我々はどのような音を知覚しているのか?」といったテーマに取り組んでいます。
ーーー これまでの歩みを教えてください。
私の研究の原点は、大学4年生の時に取り組んだコウモリの生物ソナーでした。
2005年に東北学院大学に移ってからは、いろいろな音の問題について研究を進めるようになり、イルカのソナーに着想を得て、超音波を空中だけでなく水中で利用する研究を始めました。この水中超音波の研究については、2006年から現在まで継続して行っているのですが、2017年には会社を興してアカデミックとビジネス両面からの研究と社会実装を行っています。
起業の大きなきっかけとなったのは、「新しいやり方を試したい」という強い思いが芽生えたことです。当時参画をしていた研究プロジェクトは大規模で、新しい発想をすぐに反映していくことが難しかったため、「自分で能動的に進めていこう」と起業を決意しました。
世の中には音に関する様々な問題がありますが、それらに一つ一つ取り組んでいきたいという想いを持ちながら活動を重ねてきました。
ーーー 社会との接点となる取り組みにはどのようなものがありますか?
研究において大切にしているのは、水産業における「資源量の把握」という課題を解決したいという思いです。現在、魚群探知機はありますが、カメラやレーダーが使えない水中では、その性能には限界があります。この未解決の課題を、超音波技術で何とかしたいと考えています。
実際に、私たちが立ち上げた株式会社AquaFusion(アクアフュージョン)では、この課題に応えるべく、「AquaMagic(アクアマジック)」という小型魚群探知機を開発・販売しています。これは、国の研究所や大学、民間の調査会社だけでなく、一般の漁業者の方々にも提供されており、特に西日本を中心に導入が進んでいます。これらの製品は資源量把握を目的としており、研究的知見に基づいた高い精度が特長で、魚1匹1匹を直接計測するため、より精度の高い計測が可能になっています。
しかし、現在の製品だけでは課題を十分に解決できたとは考えていません。今後の展望として掲げているのが「スマート水産」という概念です。これは、ICTやIoTといった先端技術を活用し、水産資源の持続的利用と水産業の産業としての持続的成長を両立させる、次世代の水産業を指します。その実現に向けて、データの 「デジタル化(DX)」 と 「データベース化」 を進め、あらゆるデータを次の世代へ引き継げる仕組みを構築しようとしています。
ーーー 今後、どのようなビジョンを描いていますか?
超音波技術は社会実装レベルで見ると、カメラやレーダーに比べてまだ優勢とは言えません。しかし、水中に関しては「誰もわかっていない」部分が多く、宇宙と同じくらい未解明の領域だと言われています。だからこそ、水中での超音波活用には大きな可能性が残されていると考えています。超音波は水中で真価を発揮する技術であり、この未踏の分野を切り拓くことに強い魅力を感じています。今後は、大学での研究と会社での事業活動の両面から、「発展の余地を秘めた学問分野」として探究を進めていきたいと思います。
また、大学ではこれまでに、様々な学問分野の先生方と共同研究を行ってきました。これは大学ならではの大きな強みであり、分野を超えた交流から新しい発想や成果が生まれると信じています。一方で、会社としては引き続き研究開発の社会実装を重ねていきたいと考えています。
ーーー最後に、未来の挑戦者である若者たちに向けたメッセージをお願いします
まず「やってみないと、わからないことがある」ということを伝えたいです。「何がやりたいか分からない」「何に興味があるか分からない」という学生さんの声もよく聞きますが、様々なことをやってみて、そこから自分の興味関心に当てはまるものを選んでも良いと思います。
私自身が学生だった頃は、一つの分野を深く追求することが重要だと考えられていましたが、今の時代は少し違うと感じています。これからは、様々な話を聞き、多様な分野に興味を持ちながら、そこから自身の可能性を広げていくことが重要です。色々な人の話を聞いているうちに、意外な分野に興味を持つこともあるかもしれません。もし挑戦してみたいことがあるのなら、ぜひ一歩踏み出して挑戦してほしいと思います。
また、ぜひ身近なものをじっくりと「観察」してみてください。そうすることで、きっと何か問題点や、解決すべきテーマが見えてくるはずです。「これはどうしてこうなるのか」「どうしたら解決できるのか」などの疑問が自分の中に湧いてきたら、行動する大きなチャンスです。皆さんが何かに挑戦するきっかけを見つけ、大きく羽ばたいてくれることを心から願っています。