ーーー 現在、大学ではどのような研究をされていますか?
今取り組んでいるのは、外国人観光客の「おもてなし」と「地域活性化」です。外国人観光客をオーバーツーリズムが深刻な都市部から地方へどう誘致するか、そして彼らが訪れた際に地域全体として、どのようにおもてなしをしていくか、というテーマです。インバウンド(外国人観光客)の数は年々増加していますが、実際に彼らが訪れるのは東京や京都、富士山など限られたエリアで、地方都市にはほとんど足を運んでもらえていないのが現状です。この偏りが引き起こすのがいわゆるオーバーツーリズムの問題です。
一方で、観光資源がありながらも観光客が来ない地方には、また別の課題が存在しています。例えば東北の温泉地には、泉質や景観の面で他地域に劣らない魅力があるものの、プロモーションの不足や、外国人と日本人の温泉に対する認識の違いから、泉質の良さが十分に伝わりにくいという課題があります。さらに、地域側が観光資源に自信を持てていなかったり、高齢化や後継者不足により「もうこれ以上新しいことをする気がない…」といった空気が漂っているケースも見られます。
このような都市部と地方の両方の課題を見据えながら、どうすれば地方の魅力をきちんと伝え、持続可能な観光を実現できるかを、地域・産業・大学など多様なステークホルダーの連携を見据えながら、実践的に研究しています。
ーーー これまでの歩みを教えてください。
私は東京出身で、大学時代は東京で過ごしました。その後、外資企業で働いてきましたが、外国人の同僚との協働や日本でのアテンドを通じ、異文化や観光への興味が芽生えました。また、プロジェクトマネジメントの仕事では、多様な国籍のメンバーと共に働く中で、異文化理解の重要性と国際的な協働の面白さを肌で感じてきました。その企業で働きながら、夜間の大学院で博士号を取得し、九州産業大学で経験を積んだ後、東北学院大学の経営学部で教鞭を執る機会を得ました。
当初は、旅館「加賀屋」に代表される、組織としての「おもてなし」のあり方に注目して研究していましたが、2017〜18年頃の訪日外国人急増に伴い、「日本人向けのおもてなしがそのまま外国人にも通じるか?」という疑問が浮上しました。そこで、外国人に人気の旅館では、どんな工夫がなされているのかについて調べたところ、「旅館だけでなく地域全体で受け入れ体制を整える必要がある」という現場の声が多く上がり、興味深いと思いました。このことがきっかけで、地域全体での外国人向けおもてなしの提供に関する研究へとシフトしていきました。
また、前任の大学で過ごした福岡では地元愛や地域活性への熱意を肌で感じましたが、東北では、温泉地など観光資源は豊富でも、プロモーション不足や、地域が観光資源に自信を持てない現状、高齢化による閉塞感などの課題に直面しました。この九州と東北のギャップこそが、私が東北で「地方創生×外国人観光客」というテーマに取り組む強い動機となっています。
ーーー 社会との接点となる取り組みにはどのようなものがありますか?
東北学院大学の学長研究支援を活用し、日本航空(JAL)東北支社との産学連携プロジェクトを進めています。具体的なプロジェクトの一環として、山形県東根市でのサクランボの収穫体験が挙げられます。学生を現地に派遣し、特産品であるサクランボの収穫体験が、どのようにすれば若者や外国人観光客にとってより魅力的なコンテンツになるかをリサーチしています。また、そのほかにも学生たちと若い世代をサクランボ収穫に呼び込んでいくことに向けた研究を行い、その成果を地元のJA全農さんへ発表しました。
また、東北学院大学には留学生も多いため、彼らの視点を活かして、観光コンテンツの多言語化や、外国人に響くスポットの発掘・商品化にも取り組んでいます。例えば、多言語化への取り組みとして、青森県のある市の観光ウェブサイトが日本語のみであるといった現状に対し、留学生の協力を得て観光コンテンツの多言語化を進める構想があります。さらには、日本人には見落とされがちな「温泉+α」の魅力(例えば蔵王のキツネ村や長野県の温泉に入る猿など)を外国人目線で発掘し、多言語化やモニターツアーなどの企画構想もあります。
ーーー 今後、どのようなビジョンを描いていますか?
秋保温泉のような一部地域では、若手の経営者がレトロな空間にカフェを開業するなど、新しい動きも生まれています。しかし一方で、「事業拡大に意欲がない」、あるいは「外国人観光客には来てほしくない」とさえ考えている地域の存在も明らかになっており、これらの地域では、リーダー層の高齢化や後継者不足が深刻です。今後は、こうした地域で新たな挑戦を始める「キーパーソン」をいかに支援し、地域全体の魅力を再発見し、未来に繋がる観光地づくりへと広げていくかが重要なテーマとなります。
また、今後の目標として、産官学連携の取り組みをさらに広げて、地方の“観光力”を引き出す共創の仕組みを作っていきたいと考えています。これは、現在の協働先である日本航空(JAL)が空港を起点とした地域の活性化を望んでいることとも合致しており、空港周辺地域の魅力をさらに開拓しようという取り組みにもつながっています。大学・自治体・企業・住民が一体となって、「自分たちの地域を誰にどう伝えるか」を共に考え、形にしていく。そのプロセス自体が、地域の魅力を再発見し、未来に繋がる観光地づくりになると信じています。
地方が持っている魅力は、東京や京都のような「完成された観光地」では味わえない「素の日本の暮らし」や「人との距離の近さ」です。これを外国人に届けることができれば、観光という枠を超えた交流が生まれるはずです。地方が持つ「素の日本の暮らし」や「人との距離の近さ」といった独自の魅力を外国人観光客に届けることで、観光の枠を超えた深い交流を生み出し、地域全体の活性化に繋げていくことが最終目標です。
ーーー最後に、未来の挑戦者である若者たちに向けたメッセージをお願いします
若い皆さんには、ぜひ海外に出て、多様な文化に触れてほしいと思います。海外には新しい価値観やビジネスの種がゴロゴロ転がっています。例えば、スターバックスの創業者ハワード・シュルツ氏も海外旅行での経験の中でビジネスのヒントを見出しており、イタリアのエスプレッソ文化から着想を得たという話は有名です。今は昔よりも若者の“内向き志向”が強いとも言われますが、感性が鋭いうちに海外へ出て、見聞を広めることは大切だと感じています。
また、学びにおいても「現場主義」を忘れないでほしいです。論文や数値的なデータなど、ネットで簡単に情報を得ることができますが、実際に現地に足を運び、目で見て、耳で聞いて、感じることに勝る学びはありません。自分の五感をもって体験した情報は、どんな論文やデータよりも深く、あなたの中に残ります。是非若いうちにたくさん旅行をして、見聞を広げて行って欲しいです。
観光業は、離職率などの面から就職先としては厳しいとみる向きもありますが、人と地域と世界をつなぐ大切な仕事です。私自身も海外での研究発表の中で、日本の温泉文化の良さ・可能性・課題などを研究成果として伝えています。より多くの学生が観光業に関心を持ってくれたらとも思っています。
